参加アーティストの中では、唯一音楽分野のアーティストである作曲家の井川丹さん。まだ冬の気配が残る3月、八戸市美術館に初来館し、美術館を下見するとともに、森司キュレーターとの打ち合わせで作品の構想についてディスカッションをしました。
森さんからは、このジャイアントルームに音を響かせたい、というオーダーがありました。井川さんはこれまでの作品の中で、東京の環七(東京の道路、東京都道318号環状七号線のこと)を歌にしたり、誰かが記述した文章を楽譜にして歌にしたりと、ユニークなアプローチで音楽を立ち上げ、その言葉を人の声に乗せることでそれらの言葉を血の通うものにしてきました。さて、八戸での展示では、どんな言葉に音をつけて作曲をするのが良さそうか。八戸の風景を言葉に紡いでそれに音をつけてはどうか、既存の詩を用いるのが良いか…など案を出しつつも少し煮詰まります。
ちょうどこの時は、3月19日(土)から始まる展覧会「持続するモノガタリ—語る・繋がる・育む 八戸市美術館コレクションから」の設営期間中だったのですが、いくつか作品も見ることができたため、展示作業中のホワイトキューブを井川さんに見ていただきました。
その中で、井川さんの目に止まったのが、八戸市美術館のコレクションの中でも人気の、教育版画作品《虹の上をとぶ船総集編Ⅰ》(八戸市立湊中学校養護学級生徒、1976年制作)でした。
八戸市美術館のコレクションであるこれらの作品を言葉にし、その言葉に音楽にしてはどうか。そんなアイデアが浮かびます。…音楽でこの作品の世界観に触れることに繋がりそうな気がして、とてもワクワクします。作品制作の方向性が見えたところで、ではどうやってまずはその言葉を立ち上げるか、誰かに力を借りるとしたら誰が良さそうか、音響・録音を含めたテクニカルスタッフが必要…と、井川音楽作品の制作チーム編成についても打ち合わせました。
また一方、美術館にあるスピーカーを用いて、美術館内の音の響き方をチェック。いくつかの種類の音源を流したところ、井川さんが得意とする「人の声」の響きが良さそうという手応えを得ました。
作品の方向性が見えた下見となりました。