井川丹さんの作品は、八戸市美術館のコレクションである教育版画《虹の上をとぶ船 総集編Ⅰ・Ⅱ》から言葉を紡ぎ、歌にするものですが、この音楽作品は、子どもたちに歌ってもらう合唱パートと、歌手のみなさんに歌ってもらうヴォカリーズ(言葉は使わず、母音などで歌う)のパートによって構成されます。
9月は、そのヴォカリーズパートを、作品を目の前にしての録音です。歌い手のEri Liaoさん、田中俊太郎さん、渡邉 智美さんの3名と、指揮役でもあり身体表現や絵を描くことで音楽に加わるダンサーの大西健太郎さんの4名でのセッションです。
声を出す前に、まずは絵を見てディスカッションタイム。井川さんが絵について気づいたこと、坂本先生の書籍などからわかったこと、分析したところなどを話しながら、歌い手の皆さんや大西さんからも、絵に描かれているものを言葉にしたり、どうしてこういうモチーフをここに描いたのだろうかなどと意見を重ねます。その様は、まるで鑑賞プログラムを行うかのようでした。
井川さんが作曲した音楽の楽譜は、絵や図形などが添えられている「言葉の楽譜」と「五線譜」のものと2種類。「言葉」の楽譜は、声の出し方や発音・タイミングが歌い手に委ねられている部分も多く、絵を見ながら、耳を澄ませながら、イメージを膨らませながらのセッションが進んでいきます。
指揮役で大西さんが声や表現を引き出したりしつつ、彼もまた声に引っ張られたり流されたり、あるいは歌い手の3人もお互いの出方を読み合いながらも切り込んでいく…一つの絵を皆で歌っていくクリエイションは、有機的に絡み合うものでした。
西洋の声楽曲や日本の歌曲を歌うのとは異なる録音現場です。
録音はブラックキューブで行い、展示室の廊下が録音ブースに。美術館がスタジオになりました。
ジャイアントルームやお隣のコレクションラボに少し音が漏れました…が、皆様ご協力ありがとうございました。