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想い
美しいHUG!
八戸市美術館が掲げる「出会いと学びのアートファーム」のコンセプトを、当館が展開する事業の2つ柱「展覧会」と「プロジェクト」で体現する企画として、ゲストキュレーターに、元・水戸芸術館の学芸員で、現在は東京都歴史文化財団でさまざまなプロジェクトを統括する森司氏を迎え、「美しいHUG」を開催します。
人々は、相手に愛情や友好関係を表現するコミュニケーションとして“HUG(ハグ)”をします。日本では、欧米のような日常的なハグの慣習はありませんが、意見や価値観が異なりつつも相手を認める時、敵対のないことを伝える時、試合で負けた相手にその強さと健闘を讃える時など、尊敬の念を持って交わし合うハグを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。コロナ禍で、世界的にも、ハグは回避することが推奨される状況ですが、現代社会においては、他者と必ずしも同一になるのではなく、それぞれが異なったまま出会い、リスペクトの上、エールを送り合うようなハグのマインドが求められている時代かもしれません。
新しくなった八戸市美術館では、「美術館での展覧会」と「地域でのアートプロジェクト」が有機的に交わるあり方や、さまざまな立場の人が作品を通じてハグをするように出会う場を生み出したいと考え、開館後2回目の春を迎える八戸市美術館の企画テーマとしました。
展覧会とプロジェクト、アーティストと八戸、音楽と美術、過去と未来、見えないものと見えるもの…。さまざまなHUGを八戸市美術館から生み出し、そのことがこの美術館と地域を育む種となることを期待して、この企画を実施します。
ゲストキュレーター森 司からのメッセージ
2021年八戸市にオープンした美術館は、プロジェクトや講演会を展開するための場である「ジャイアントルーム」が特徴で、飲食も可能な、屋根のある広場のように人々が集う場です。この「ジャイアントルーム」を日常生活と地続きにある流動的な時間軸を帯びる動的な空間だとすると、作品を展示するためのギャラリースペース「ホワイトキューブ」は作品が鎮座する静的で非日常的な空間です。この性格が異なる二つの空間の連なりが、新しい八戸市美術館のあり様と捉えています。それぞれ「アートプロジェクト」と「アートワーク」のための場と規定しつつも、それに囚われない「新しい使い方」をゲストキュレーターとして試してみたいと考えています。 そこで、私は、6人のアーティストにお声がけをして、性格の異なる二つの空間が入れ子になるように、会場を構成することにしました。さらに、まちから美術館へと、あるいは 美術館からまちへとつながることも考えています。
今回の展覧会タイトルは「美しいHUG!」。アーティストが美術館と出会う。鑑賞者が 作品と出会う。ワークショップやプロジェクトと 出会う。過去と現在と出会う。そして、多くの人が「新しい美術館」で「アートプロジェクト」と「アートワーク」と出会う。ありったけの出会い方の創出をイメージして、「美しいHUG!」という言葉に託しています。
ビジュアルコンセプト三上 悠里
メインビジュアルは、見ようによってはHUGしている腕のようでもあり、オーロラのような自然現象にも見えることをねらっています。それは、星空や夕焼けにはっとする、緑の山々に圧倒される…そんな理屈ではない“抗い難い美しさ”の象徴です。
オーロラは、太陽風と地球の磁気が相互作用することで生じます。性質の異なる、相反するもの同士が接触することでそのはざまに生じるもの―― それもまたひとつのHUGの形と言えるかもしれません―― その現象自体には良いも悪いもなくただそこに生じるだけなのですが、人はそこに美しさを見出してしまう、そういうところがこの企画と重なるように思いました。
人が人と出会う/モノと出会う/環境と出会う―― 異なるもの同士が出会ったときに、そこには必ず何かが起こります。それはただ単に心地いいことだけでなく、ときには怒りや悲しみを引き起こすこともある。そういうあれこれを予期しながらそれでも出会ってしまうこと、何かが起こってしまうこと、関わり合うことによって生じる抗い難いそういうことの中に、美しさの萌芽はあるのかもしれません。そういった“関わり合いや交わり合い”を表現しつつ、HUGに象徴されるような“同一になるのではない、混ざり合わない(でも共存している)”という在り方を模索して、粒子によって“混ざり切らないグラデーション”にこだわって制作しました。